父を見送ってから、もうすぐ半年になります。
葬儀が終わり、四十九日が終わり、周りの人たちが少しずつ日常に戻っていく中で、私だけがまだ、あの実家の前に立ち止まったままでした。
親戚からそう言われるたびに、頭では分かっているのに、体が動きませんでした。今日は、そんな私が半年かけてようやく実家と向き合えるようになるまでの話を書いておこうと思います。同じように「分かっているのに動けない」人に、少しでも届けばと思います。
「決めなきゃ」と「決めたくない」の間で
元ハウスメーカーの営業事務として10年近く働いていた私は、正直、この手の話には慣れているつもりでした。お客様が実家の建て替えやご両親の住み替えを相談される場面を、何度も横で見てきたからです。

それなのに、いざ自分の実家となると、何も分かっていなかったのだと思い知らされました。
父の入院が長引いた最後の1年ほどは、週末ごとに実家と病院を往復していました。仕事と看病の両立で精一杯で、「その先」のことを考える余裕なんて、正直ありませんでした。だから父が亡くなった時、私の頭の中には「実家をどうするか」という問いに対する答えが、何ひとつ用意されていませんでした。
「まだ決めなくていい」という優しさに、逃げていた
葬儀の後、親戚も友人も「今はゆっくりしていいよ」「まだ決めなくていいよ」と言ってくれました。その言葉に、正直かなり救われました。
でも今振り返ると、私はその優しさに少し甘えすぎていたのだと思います。「まだ決めなくていい」を言い訳にして、実家に足を運ぶことすら避けていた時期がありました。庭の草が伸びていくのを、写真で見るたびに見て見ぬふりをしていました。
決められなかった理由は、いくつもありました。
- 実家を「片付ける」ことが、父を「片付ける」ことのように感じてしまう
- 売る・貸す・残す、どれを選んでも何かを裏切るような気がする
- 何から手をつければいいのか、そもそも分からない
- 一人で決めるには、あまりに大きすぎる決断に思えた
実家に近づくたびに、こみ上げてくるもの
実は、半年の間に一度だけ、実家の様子を見に行ったことがありました。玄関を開けた瞬間、線香の匂いがまだかすかに残っている気がして、それだけで足がすくんでしまい、結局その日は荷物の整理どころか、部屋を見て回ることすらできずに帰ってきてしまいました。
頭では「もう気持ちの整理はついている」つもりでいたのに、実際に家の中に足を踏み入れると、まったく違う感情が押し寄せてくることに、自分でも驚きました。悲しみというより、もっと漠然とした「怖さ」に近い感覚だったように思います。
動き出したきっかけは、小さな水漏れだった
半年経ったある日、近所の方から「お宅の雨どい、少し傷んでない?」と連絡をもらいました。慌てて見に行くと、確かに雨どいが外れかけていて、このままでは近隣に迷惑をかけてしまう状態でした。
情けない話ですが、この「小さなトラブル」がなければ、私はまだ実家に向き合えていなかったかもしれません。感情の整理がついたから動けたのではなく、動かざるを得ない現実に背中を押されて、ようやく一歩を踏み出せた、というのが正直なところです。
実際に動き出してみて、最初にしたこと
雨どいの修理業者を手配するために実家を訪れたのが、結果的に半年ぶりにきちんと家の中を見て回るきっかけになりました。埃をかぶった食器棚、父が読みかけのままだった新聞、そうした一つひとつを見るたびに胸が締め付けられましたが、同時に「これはもう、いつまでも手をつけずにいるわけにはいかない」という現実的な気持ちも芽生えてきました。
その日は片付けまではせず、まず郵便物と水回りの状態だけを確認して帰りました。一気にやろうとせず、「今日はここまで」と決めて少しずつ進めることが、精神的にも負担が少なかったように思います。
今、思うこと
まだ実家をどうするか、完全に答えが出たわけではありません。ただ、動き出してみて分かったことがいくつかあります。
一つは、感情の整理と、実務の手続きは、分けて考えていいということ。 「気持ちの整理がついてから動く」のを待っていたら、私はきっと今もまだ動けていません。気持ちが追いつかないまま手続きだけ進めても、それは薄情なことではないのだと、今は思えます。
もう一つは、一人で決めなくていいということ。 元業界人としてある程度知識があるつもりだった私でも、いざ自分ごとになると何も分からなくなりました。だからこそ、詳しい人に頼る、話を聞いてもらう、比較する選択肢を並べてみる、といった小さな一歩の積み重ねが、結果的に一番の近道でした。
感情の整理と、実務の手続きは、分けて考えていい。
まとめ
- 「決められない」のは怠けているからではなく、多くの人が経験する自然なプロセス
- 気持ちの整理を待たず、実務的な手続きだけ先に進めても構わない
- 一人で抱え込まず、専門家や周囲の人に頼ることが結果的に一番の近道になる
次回は、実際に実家をどうするか検討する中で、「売る」「貸す」「残して住む」という選択肢をどう整理していったか、その過程を書いていこうと思います。

コメント