親の介護施設、決断できないまま時間だけが過ぎていく

実家の整理と並行して、もう一つずっと気にかかっていることがありました。隣県で一人暮らしを続ける母のことです。

父を見送ってから、母は「まだ大丈夫」と繰り返し、住み慣れた家を離れようとしませんでした。私も正直、強くは言えませんでした。年に数回顔を合わせるだけでは、本当のところがどれくらい大変なのか、想像するしかなかったからです。

まだ自分のことは自分でできるから、施設なんて早いわよ。
あすかそう言うと思った。でも、この前の電話、ちょっと声に元気がなかったから心配になって。

「まだ早い」と「もう遅いかもしれない」の間で

介護施設のことを考え始めるタイミングは、本当に難しいと感じています。本人が元気なうちに話し合っておきたい一方で、本人にとっては「まだそんな話はしたくない」というのが正直なところのようです。

結局、話し合いを先延ばしにしているうちに、何も決まらないまま時間だけが過ぎていく、というのはよく聞く話です。私自身も、母との電話の最後にいつも「その話はまた今度」で締めくくってしまい、気づけば数ヶ月が経っていた、ということを何度も繰り返していました。

先延ばしにしてしまう、いくつかの理由

  • 本人が施設入所を「見捨てられる」ことのように感じてしまう
  • 費用感や仕組みが複雑で、何から調べればいいか分からない
  • 「まだ大丈夫」という言葉を、都合よく信じたくなってしまう
  • 話を切り出すこと自体が、本人を傷つけるのではないかという恐れがある

特に最後の理由は、私にとって一番大きな壁でした。「そろそろ将来のことも考えようよ」と言っただけで、母が黙り込んでしまったことがあり、それ以来しばらく踏み込めずにいました。

踏み込むきっかけになった、小さな変化

転機になったのは、母が電話口で「最近、鍋を焦がしてしまって」と何気なく話したことでした。本人は笑い話のつもりだったようですが、私はその一言が引っかかり、そこから少しずつ、将来の話を切り出せるようになっていきました。

大した話じゃないのよ、ちょっとうっかりしてただけ。
あすかうん、分かってる。でも、そういう小さいことも含めて、一緒に考えていきたいなって思ってるだけだから。

「決める」ではなく「知っておく」から始める

まずは「入所させるかどうか」を決めるのではなく、「情報だけ集めておく」ことから始めるのがよいようです。決断を急がず、選択肢を知っておくだけでも、いざという時の心の準備になります。

地域包括支援センターのような公的な相談窓口に、まずは家族だけで相談に行ってみる、という進め方をしている人も多いと聞きます。本人を交えずに情報だけ整理しておき、必要なタイミングで本人に選択肢として提示する、という段階を踏むことで、本人の心理的な抵抗も和らぎやすいようです。

きょうだいとの意見の違い

私には弟がいますが、母の今後について話し合った際、意見が完全には一致しませんでした。弟は「本人の意思を尊重して、施設の話は本人から言い出すまで待つべきだ」という考えで、私は「情報だけでも早めに集めておくべきだ」という立場でした。

まだ何も困ってないのに、先回りしすぎるのもどうかと思うけど。
あすか困ってからだと、選べる選択肢が減っちゃう気がして。情報を集めるだけなら、母の負担にはならないと思うんだけどな。

結局、「情報収集は進めるが、母には急かさない」という形で折り合いをつけました。きょうだい間でも温度差が出るのは自然なことで、どちらが正しいというより、役割を分担する形で進めるのがよいのだと感じています。

費用面の不安も、先延ばしの一因だった

正直に言うと、費用面の不安も、この話を先延ばしにしていた理由の一つでした。介護施設は種類によって費用が大きく異なり、年金だけで賄えるのか、家族がどこまで負担すべきなのか、具体的なイメージが持てずにいました。

地域包括支援センターに相談したところ、公的な補助制度や、所得に応じた負担軽減の仕組みがあることを教えてもらい、想像していたよりも選択肢が多いことが分かりました。分からないことは、まず専門の窓口に聞いてみるのが一番早いのだと実感しました。

同じ悩みを抱える友人との会話

同世代の友人の中にも、同じように親の介護について悩んでいる人が何人かいて、話をする中で「うちも全く同じ状況だった」という声を何度も聞きました。特に、一人っ子ではなくきょうだいがいる場合でも、実際に動くのは特定の一人に偏りがちだという話は、多くの人が共感していました。

友人うちも母が一人暮らしで、似たような感じだったよ。結局、話し合いに何年もかかった。
あすかそうなんだ。私だけが特別に手こずってるわけじゃないんだって、ちょっと安心した。

一人で抱え込まず、同じ立場の人と話すだけでも気持ちが軽くなることを、この時期に何度も実感しました。

地域の民生委員という存在を知ったこと

今回調べていく中で、地域には「民生委員」という、高齢者の見守りや相談を担う地域のボランティア役職があることを初めて知りました。母の住む地域にも民生委員の方がいて、既に緩やかな見守りをしてくださっていたことが分かり、家族以外にも気にかけてくれる存在がいるという事実に、少し救われた気持ちになりました。

今、心がけていること

今は、母との会話の中で「施設に入れる・入れない」という重い話し方をするのではなく、「もし将来何かあった時、どうしたいと思う?」というくらいの軽さで、少しずつ話題に触れるようにしています。焦らず、何度も同じ話を繰り返しながら、母の気持ちが変わっていくのを待つしかないのだと、今は思っています。

「決める」のではなく、「知っておく」ことから始める。

まとめ

  • 介護施設の話を先延ばしにしてしまうのは、多くの家庭で起きる自然な心理
  • 「入所させるか」ではなく、「情報を集めておくか」から始めると心理的な負担が減る
  • 地域包括支援センターなど、家族だけで相談できる公的窓口を活用する

次回は、実際に施設見学に行ってみて、何を基準に見ればいいのか整理した内容を書いていこうと思います。

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